2006年7月26日
容疑者Xの献身
「白夜行」を読んだのは上海だった。留学中、読む本がなくなって、途方にくれていた時に当時高校4年生の友人が貸してくれたのを覚えている。この本も恋人が持っていたのを借りた。なんか大学のゼミで使ったらしい。
この本は同じく東野圭吾の本で直木賞とかで話題にもなっているらしい。非常に軽いつくりで、読みやすかった。2時間弱で読み終わってしまった。これは私にしたら速い方。だから万人受けしたのかなぁとも。白夜行はそこそこ時間がかかった気がした。
この作者はありそうでなさそうな話を書くのが上手い。リアリティに富んでいるのだが、現実離れしている、そんな話。白夜行のキーを握る女性にしてもそうだし、この作品の動機や、トリックにしてもそうだ。正に「事実は小説より…」の逆を行く。それでいて時代背景なんかを良くつかんでいるから唸る。
ただ、純愛を書きたかったらしいが、ちょっと空回りしてしまった間が否めない。どうしてもその純愛に対する不気味さのようなものが後に残る。石神という登場人物は個人的には共感できる部分も多い良いキャラクターだと思ったが、その素材を書ききれなかった感がある。惜しい。
また、殺人を犯すパターンは東野圭吾お決まりの男女関係のトラウマであり、そのあたりも安易だった感じがする。
えてして、直木賞受賞作ってのは、それほど面白くない。むしろその作品の数作前がピークだったりするもんだ。江國香織然り、桐野夏生然り、大沢在昌然り、宮部みゆき然り、京極夏彦然り、山田詠美然り(とは言ってもこの辺は私の好きな作家ですので勘違いなさらぬよう)。残念ながらこの作品もそのパターンに嵌ってしまっている。
大沢在昌は新宿鮫シリーズでマンネリに陥ったまま、その第4作で直木賞を受賞してしまったが、第6作でマンネリを吹き飛ばす見事な話を書いた。宮部みゆきはまだ迷走を続けている。山田詠美は同じ話しか書けなくなってしまったし、江國香織はそのおしゃれっぽい文体を悪い方向に磨きを書け、同じクオリティの話すら書けなくなってしまった。京極夏彦はデビュー当時のパワーはなくなりかけている感があるが、この夏次回作にまだ期待している。桐野夏生はよくわからない。
てことで東野圭吾にもパターンからの脱却と、更なる飛躍を期待したい。