2006年9月14日
俺にとっては幻のカレー
町田に「リッチなカレー アサノ」という店がある。前々(何年も前)から、何度か足を運んでいるのだが、いつも閉まっていた。昼の3時過ぎ以降に行くと「材料切れのためおしまい」とか言う看板がかかっているのだ。空いているかどうかも疑わしかったのだが、ネット上でそこそこ評判になっているらしく、開店してはいるらしい。テレビや本なんかでもたびたび見かけるので、一度は食べてみたいなぁと思っていた。
今日行ったらやっていた。
入ったら店の爺さんに「まだやってないよ」と言われたので、「何時からですか」と訊くと「11時半からだ」。壁の時計を見ると11時45分。とっくに過ぎている。いきなりハイブロウ。
爺さん「開店するとすぐ混むから、座って待ってな」とかほざいた後、「何食べるんだい」と訊いてきた。メニューには噂どおり
- チキンカレー 900円
- ポークカレー 900円
- リッチなカツカレー 1400円
とある。
「カツカレーを」
「カツカレーしかやってない。年をとると材料をそろえるのが大変で、今日はカツカレーしかやってねぇんだ。今日はやってない。これ以外をやっているときもある。」
カツカレーと言ったのだが、ご丁寧に答えてくれた。これまた噂どおり、やはりカツカレーしか食べさせてくれないらしい。噂どおりの変人ぶりで、この辺で俺はもう愉快で嬉しくて仕方がない。しかも言ってることは理不尽な頑固親父系だが、なかなか憎めない愛嬌がある。
それでも恋人と行ったからか、いろいろもてなしをしてくれた。狭い店内にうず高く積み重ねられている雑誌を広げていろいろ見せてくれた。もちろん開いて見せてくれるのはアサノが紹介されているページ。「ここにも載っているんだよ」「これもだ」「これも」… いやー、愉快である。それはいいから、さっさとカレーを作って欲しいとも思ったが。
それでも、しばらくしたら、爺さんは肉たたきでカツの肉を叩きはじめ、本格的にカレー作成に入るとともに、おしゃべりをストップした。その間は、雑誌を読んでいたが、東京生活の町田大特集が面白かった。白洲次郎の邸宅、日本に4箇所しかないパイプオルガン工房などが町田にあることを知った。
30分ほど待ち、ようやくカレーが出来上がった。「さらさらだからこぼさないように注意しなよ」と爺さんの忠告どおりそのカレーは、ちょっと前に流行ったスープカレーのようにサラサラである。肝心の味は、独特だがなかなか美味い。さっぱりしていながらスパイシーで、しっかりした味わいがある。カツも肉の厚さ、柔らかさなどに研究の跡がうかがえる完成度である。
食べている途中、女性の2人組が来店し、チキンカレーを注文した。爺さんは当然のごとく「カツカレーしかやってない」の一点張り。「無理には薦めないけど、カツカレーはうまいから、食べていきなさい」「高いな~と思うなら、帰ってもいいよ」とか言っていたら本当に「じゃ、すみませーん」とか言って帰ってしまった。
これには、爺さんも少ながらずショックを受けたようで、「俺は無理には薦めねぇんだよ」とか、「ああいう人達は、味覚音痴なんだ。可哀想にな」などと、ぶつぶつつぶやく姿には哀愁が漂っていた。
「町田中探し回ったって、ここより美味しいカツカレーは何処にもないのになぁ」とか言い出して、適当に相槌を打っていたら、話がエスカレートし始めた。
「俺は他の店全部食べてるからわかるんだよ。町田はほかの店行ったけど、全部まじぃんだよ」
「まず漬物がまずい。硬い」
いきなりカレーとはあまり関係ないところを指摘するあたりが面白すぎる。そこで漬物の話を振ると、
「ばあさんが作ってるんだよ。ラッキョウは俺が漬けてるんだけど。」
と答えてくれ、自慢のラッキョウを追加で出してくれた。
一見理不尽な頑固オヤジ風だが、根は非常に子供っぽく、かわいらしい爺さんであった。誉めると喜んでいるのが分かるしね。
しゃべり掛け系親父としては、淵野辺にある「肥後っ子 大石家」という熊本ラーメン屋の親父もかなりのもので、久しぶりにそこにもちょっと行ってみたくなった。