おそらくはそれさえも平凡な日々

「コンテナ物語」は破壊的イノベーションと人間たちの物語だった

これは、ITエンジニアが真っ先に想起するアプリケーションコンテナではなくて「物理コンテナ」の物語です。以前、コンテナに関するイベントに登壇させていただいた際に読んでいたのですが、やっとこさエントリを書きます。

この本について

この本には、コンテナが「20世紀最大の発明」と言われるくらい、如何に革新的であったか、どのように普及していったかが書かれている。これは是非ITエンジニアに読んで欲しい。今のアプリケーションコンテナとの類似点が非常に多いからだ。原題は「The Box」であるが、日本語訳の「コンテナ物語」は僕らにとってはナイス訳だと言わざるを得ない。

コンテナが発明され、世界の船やトラック、鉄道のコンテナ運送が共通化される中で、どのような変化が起こったかについて、具体的には以下のようなことが書かれている。

  • そもそもどうしてそのようなアイデアが出てきたのか
  • どのように規格化が進行したのか
  • 現場の反発に対してどのように対応したのか
  • パラダイムシフトによる隆盛と衰退
  • その後の世界の変化

マルコム・マクリーンというビジョナリー

まず、この本は裸一貫で運送会社を立ち上げたマルコム・マクリーンというビジョナリーがコンテナ輸送を提唱し、その行動力を持って普及させたことについて書かれている。

早く新事業に乗り出したくてうずうずしているマルコム・マクリーンは、なんとかアイデアを実現する方法をみつけるよう部下をせかす。

冲仲士という専門職能団

当時の技術職である沖仲士(港湾労働者)の描写も面白い。当時の沖仲士が会社へのエンゲージメントよりも横のつながりが強かったことは、2000年代のWebエンジニアを彷彿とさせる。

港湾労働の特殊性から、波止場には独特の文化が生まれた。一つの会社のために働く仲仕はまずいないから、彼らの忠誠心は仲間とともにあり、会社に義理立てする者はいなかった。自分の仕事ぶりを知っているのも、気にかけているのも、仲間だけだと男たちは考えていた。労働は苛酷で危険である。そのつらさは他人にはわからない。だから、労働者同士の団結は強かった。

大都市の他の産業と比べ、港湾荷役業では労働者階級特有のコミュニティが発達した

そんな彼らが、コンテナという破壊的イノベーションに対してどのような抵抗を示し、どのように受け入れていったかといったこともこの本には書かれている。

コンテナという「システム」

コンテナは単なる箱ではなくてシステムとなって本領を発揮した。

輸送コストの圧縮に必要なのは単に金属製の箱ではなく、貨物を扱う新しいシステムなのだ

単なる箱だけではなく、港や船、クレーン、制御ソフト、それらがあってこそ、コンテナの本領が発揮される。そこには標準化の物語があり、その中でどのような思惑の交錯があったのか、アメリカとヨーロッパでの思惑の違いについてもこの本には書かれている。

このあたりはKubernetes周りのエコシステムの発展を思い描きながら読んだ。ここでちょっと面白かったのは「コンテナ化して盗難が減った」という話。「隔離性」の重要性が物理コンテナでも在ったのだ。

隆盛と衰退

船会社はコンテナに移行するための巨額の費用を負担して青息吐息になり、ほんの一握りしか生き残れなかった

コンテナリゼーションは世界の港のパワーバランスを一変させた。コンテナ対応が早かった港が一気に成長することとなり、逆にニューヨーク港など隆盛を誇った港が衰退した。

例えば、湾の奥の港はコンテナ以前は工場の近くまで物資を運ぶために大いにメリットがあったが、コンテナ時代になると、無理して湾の奥まで行かなくても、手前の付けやすい港に停泊して、ハイウェイでコンテナを運んでしまえば良くなった。わざわざ湾の奥の港を使う必要がなくなったし、コンテナ化により、船が巨大化し、喫水の関係上、浅い港には停泊できなくなったというのもあった。

パラダイムシフトで情勢が一変したことが書かれていて、インパクトが強い。

アジャイルの萌芽

このような可能性が最初に注目されたのは、一九八〇年代初めのことだった。日本のトヨタ自動車が開発したジャストインタイム方式である

この本はアジャイルについては書かれていないが「コンテナの未来」という章でトヨタについて書かれている。

コンテナにより、輸送コストが下がり、リードタイムも短くなった。これにより、部品などの中間財の在庫を抱えずに、リアルタイムに不足を補うようになっていた。これにより、世界の物流の半分以上を中間財が占めるようになった。

これが「ジャストインタイム」方式である。コンテナによりリードタイムのボトルネックが解消されたからこそ、ジャストインタイムが生まれ、トヨタが躍進したのである。

八七年には、フォーチュン五〇〇にランクされる米企業の五分の二がジャストインタイムを採り入れている。そして採り入れた企業の大多数が、これまでとは全然ちがう輸送方式に切り替えなければだめだと気づいた

「トヨタ生産方式」は僕らアジャイル開発者にとっては必読の一冊である。口酸っぱく「作り過ぎの無駄」について書かれている。そうしないようにジャストインタイム方式が生まれ、それを生み出したものがリアルコンテナなのである。それがまたアジャイルの種になり、クラウドそしてアプリケーションコンテナに至り、インフラ調達のリードタイムを解消する革新的イノベーションにつながっていることは胸熱だと言わざるを得ない。

このエントリでだいぶ書いてしまったが、それでもこの「コンテナ物語」の面白さを損なうものではないので、ぜひ読んで欲しい。

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2019-07-22T03:19:49+0900

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