あなたは本当に文章を書くのが遅いのか
このエントリーは、Mackerel Advent Calendar 2020 5日目の記事です。
さて、多くの人が「自分は文章を書くのが遅い」と思っているのではないでしょうか。僕もそう思っていました。
ブログエントリーを書き出すと得てして思っていた以上の時間がかかります。書くことがだいたい決まっているちょいネタのつもりであっても書き出してみたら数時間かかってしまう、大作であれば丸一日潰れてしまったり、しばらく寝かして数日がかりになることも珍しくありません。そして「ああ、自分は文章を書くのがなんて遅いのだ」と嘆いてしまうのです。
そして、見事な大作ブログ記事をバンバン投稿している人を見ると「書くのが速い人は羨ましいなー」と羨望してしまいます。また故栗本薫氏が、一時間に原稿用紙96枚分を書いたなどの伝説を聞くに、圧倒されて唖然としてしまい、やる気を失ってしまいそうになります。
しかし果たして本当にあなたは文章を書くのが遅いのでしょうか?
「時速1000字で書く技術」という本があります。A4一枚がだいたい1000文字程度であり、それを1時間程度で仕上げる技術の身につけ方などについて書かれています。また、筆者本人の例を取り、プロの文筆家であっても、長い文章を書く場合、均せば大体時速1000字くらいであるということも書かれています。
つまり、時速1000字で書ければ充分に速いのです。これは意外に少なく感じるのではないでしょうか?
結局、たくさん文章を書いているように見える人は、一部の例外を除き、それだけの時間を使っているのです。実際、一時期毎月圧倒的なブログエントリーを書いていたエンジニアが元同僚にいましたが、彼が実はブログを書くために毎月有給を取って休んでいたことを僕は知っています。
推測するな計測せよ
そういえば、これはMackerel Advent Calendarなのでした。ということで「遅い」と推測するのではなく、実際に速度を計測してみましょう。
Macをお使いなのであれば非常に簡単に実現できます。mackerel-agentをhomebrewでインストールし、以下の様なシェルスクリプトをプラグインとし、mackerel-agent.conf に設定するだけです。
#!/bin/bash
export LANG=ja_JP.UTF-8
export LC_ALL=ja_JP.UTF-8
chars=$(cat /path/to/*.md | wc -m)
echo "chars.writing.manuscript $chars " $(date +%s)
値の取得に1行、出力に1行と、実質2行のシェルスクリプトで実現できてしまいます。ちなみに、LANG
等の環境変数設定を入れないと wc
の -m
(multibyte) オプションが効いてくれなかったのでこうしています。こういうちょっとした計測をサクッと作れるのはMackerelの良いところですね。
更に乱暴なハックとして、mackerel-agent.confに直接書いてしまう手もあります。
[plugin.metrics.chars]
command='''
export LANG=ja_JP.UTF-8;
export LC_ALL=ja_JP.UTF-8;
chars=$(cat /path/to/manuscript.md | wc -m);
echo "chars.writing.manuscript $chars " $(date +%s)
'''
実際、たまに書籍や雑誌の執筆依頼をお受けすることがありますが、そんな時はこんな感じで計測しています。
さて、このエントリーを書くのにもこのプラグインを使ってみました。結果はどうだったでしょうか?
時速1000字以上のスピードで書けています。やや速めに思われてしまうかも知れませんが、プラグインのコードがあるのでそれで文字数を稼げてしまっているというのがあります。ちなみに途中、山が出てから凹んでいるのは、アフィリエイトコードを貼り付けたら跳ねてしまったので、それは執筆中は削ったという経緯です。
ということで、どうやら僕自身の文章を書く速度は特別速いわけではありませんが、決して遅いわけではないということが分かってしまいました。そして、多少なりともブログ記事などを書いたことのある人であればそれくらいの速度は出るのではないかと思っています。つまり、おそらくあなたの文章を書く速度は残念ながら遅くありません。
結局、文章を書く世界でも、圧倒的な天才に惑わされず、時間を使って地道に頑張る。そうすれば、超一流にはなれずとも、それなりのレベルにはなれる、というどの世界でもよくある話でしかないのだな、と思うようになりました。
余談
「800字を書く力」という同じく字数がタイトルに含まれる、文章の書き方を扱った書籍があります。この本の中の「文章は、書くと書ける」という表現が気に入っています。つまりプロの文筆家も、書きながら考えていて、書く文章が全て最初から頭の中に入っているわけではなく、試行錯誤しながら内容を固めていく、というようなことが書かれていました。
意外に感じたのですが、考えてみればこれは我々ソフトウェアエンジニアも同じです。多くの場合書きながら設計して最終形を固めていくわけです。これも、それを専門としない人たちからすると意外に感じられることもあるのだろうな、と思っています。
そして「書くと、書ける」。これは文章にせよソフトウェアにせよ肝に銘じたいものです。