持続可能で幸せなOSS開発 ~ YAPC::Kyotoを終えて
もうだいぶ前になってしまいましたが、3月に京都でYAPC::Kyotoに参加してきました。
YAPC::Kyotoは運営の皆さま、本当にお疲れ様でした。コロナ渦で運営の継続には色々苦労があったかと思います。そんな中、世間的にコロナ明けの雰囲気になってきている中、ちょうど先陣を切るような形でオフラインイベントが開催できて、大きな盛り上がりを見せたのは、皆様の苦労が報われたようにも思いました。旧交も温められたし、それだけではなく、学生支援制度などのお陰で、若い人も参加していて交流が盛り上がってよかったです。
思えば、2019年のYAPC::Tokyoのときに僕がベストトーク賞を受賞した勢いで、懇親会の最後にで胴上げされた後に、無責任に「次は京都でやるぞ!」と、勝手に宣言したのが実現した形でした。JPAにも禄に関わっていないのに(当時は一応末席で参加することもあった)。とはいえ、懇親会で @__papix__ が「次は京都もアリだと思ってるんですよ」とか言っていて、僕が「KRP開催で大西さん(id:onishi)がキーノートだったら最高だよね」と返し、papix「京都開催だったら僕が動きますよ」とかそういう会話はしていたので、まあ目のない話ではないだろうと思った上であの発言をしたと記憶している。事前に何もなしにいきなりあの発言をするとも思えないので。しかし、papixもあまり覚えていないようなので、全部記憶違いかもしれない。
延期もありましたが、KRP開催で大西さんのキーノートが実現できたのは本当に嬉しかった。単なる外野の無責任なファンボーイとしては満足だけど、実現にあたっては難しい点もあったでしょう。papixのお疲れ様エントリーにも、自社への利益誘導にならないかどうか気にしている記述もあって、その点含めて誠実にYAPCに向きあったことが伺えて素晴らしかった。僕は、YAPC::Tokyo時点では、はてな社所属でしたが、その後3回も転職してしまいました。
あらたまさんのベストトーク
あらたまさんベストトーク賞おめでとうございます。このトークは予てから楽しみにしており、僕のトークの中でも「あらたまさんのトーク楽しみですね」という話もしていたのでした。
“あの日ハッカーに憧れた自分が、「ハッカーの呪縛」から解き放たれるまで” このトークめっちゃ楽しみにしている。 / “YAPC::Kyoto 2023” https://t.co/lt1rqWxfRK
— songmu (@songmu) March 12, 2023
というのも、YAPC::Japan::Onlineのキーノートを担当させてもらったときに、「ハッカーに憧れた原体験を大事にしたい」という話をしていたのですが、このタイトルは明らかにその先の景色を見せてくれる話だろうと期待していたからです。果たしてその通りの内容でした。
yusukebeの復活
yusukebeの最近の活躍はカッコいい。一時期コードから完全に離れていたのに、ハッカーとして舞い戻ってきた。
元々yusukebeと僕は同世代で、Perl界でも近い立ち位置にいて、ハッカーに憧れつつもハッカーが作ってくれたものを「使う」立場だった。それでいいじゃんというメッセージを込めて"Perl Casual"を立ち上げたのもyusukebeだった。
Perl Casualは盛り上がり、その後のMySQL Casualなどのカジュアル勉強会ムーブメントにも繋がった。
そのようにハッカーに憧れる側だし、それでいいじゃん、というメッセージを発していた彼が、Honoというキラーソフトウェアを引っ提げ、フレームワークやモジュールを使う側ではなくて「作る側」のハッカーとして舞い戻ってきたのはアツい。
それに、Honoを見る人が見るとPerlの影響を感じる作りになっているのもエモい。明らかにPSGI/Plack, Router::Simple, Router::Boom 等からの影響があることがわかってニヤリとしてしまうのである。
moznionと個人技の話
moznionの話は良かった。彼が学生の頃から知っているが、彼のソフトウェア開発の力における「腕力」は凄まじく、時には「異常な努力」などと言われることもある。その一つの集大成がゲストトークとして見られたと思う。
裏テーマとして「個人技」というのがあったというのも納得で、彼の「極限まで求めた個人技と個人技のせめぎあい、そしてその技の協調によって形成されるチームこそが最強のチーム」という意見には全面的に同意する。
#yapcjapan YAPC::Kyoto 2023に行ってきた・喋ってきた
彼もまた「ハッカー」に影響を受けた世代なのだな、とも。
ハッカーと無縁の世代
無縁とは言い過ぎかもしれないが、最近面白いのは、はてなで活躍中の id:yigarashi さん。YAPC::Kyotoでトークはしていなかったが、YAPC::Japan::Onlineではトークをしていた のもあって注目していた。
あまり交流したことが無いので勝手な想像だが、彼は優秀なソフトウェアエンジニアでありながら、おそらく世代もあって、ハッカーであることにこだわりが無く、最強のエンジニアリングマネージャーを素直に目指している。新世代だと感じる。
ハッカーに憧れた世代が、それに対してそれぞれのアプローチ方法を見つけ、ハッカーに強いこだわりを持たない世代も出てきている、という多様さに対して胸がアツくなるYAPC::Kyotoだった。
自分のトーク
資料は荒削りだが、手直しがいつまでもできそうにないので公開することにする。
https://junkyard.song.mu/slides/yapc-kyoto-2023/#0
元々は自分の事例を例にとって、OSSに関わっていく方法について話していく技術的なTips集的な話にする予定だったが、エモい内容も含まれてしまい、とっ散らかってしまった。このトークの原案は、元々の2020年のときに話そうとしていた内容だったが、そこから数年経って醸成されすぎてしまった。
このトーク資料を作っているときや実際に登壇していた気づいたが、自分は「持続可能で幸せなOSS開発」について論じたい、というモチベーションがあることに気づいた。
OSS開発者が燃え尽きてしまったり、資金難になったりして開発を続けられなくなる話は度々耳にするようになってきた。また、サプライチェーンアタックなど、元々性善説で運用されてきたものが通用しなくなり、悪意が混入するようになってきた。
OSSの影響範囲が大きくなるに連れ、責任が求められてしまったり、悪意の混入を防ぐために重厚なプロセスが敷かれてしまったり、暗黙的なマナーなどが勝手に設けられているケースがあったりと、OSSへの参加に対する敷居が高く感じられてしまっている空気も感じていた。
それらに対して個人的に心を痛めていたのだ。だからこそ「それでもOSSは楽しいよ、気軽にやっていいよ」という無垢な立場を取り続けていた。
ただ、悪意の混入については本当に悩ましい。また、Web3等の一部の人たちが「OSSだからガバナンスがうまくいく」といった、そこだけ切り取ると、あまりにもイノセントに聞こえる発言を聞くと、無垢を気取りすぎるのも良くないと思うようになってきた。
自分にとってはOSS開発やそのコミュニティに関わったことが、大きな人生の転換期だった。「持続可能で幸せなOSS開発」を多くの人が体験できる状況であって欲しい。これについてはまたどこかで論じたいと思う。
WEB+DB PRESS
話がそれるが、このGWのビッグニュースとしてWEB+DB PRESSの休刊というのがあった。
WEB+DB PRESSではPerl Hackers Hubというリレー連載が今でも続いている。リレー形式でPerl Hackerの方にPerlに関する記事を書いてもらうものだ。僕は、2014年と2018年に寄稿し、2016年からは連載の監修チームに関わっていた。2019年の初頭までは執筆者のアサインを担当していて、第35回~第53回まで延べ19名(重複含む)をアサインした。
WEB+DB PRESSはコミュニティに関わっていなかった頃から毎号買っており、誌面からコミュニティとのつながりを感じ取れる気がしたものだ。Perl Hackers Hubに寄稿できたときは非常に嬉しかった。その後、執筆者のアサインをする中で、執筆者の人たちがコミュニティと更に繋がる手助けができたと感じることもあった。
このPerlの連載もいつまで続けられるのか、と思うこともあったが、雑誌のほうが先に休刊してしまうのは残念である。とはいえ業界への貢献も僕が言うまでもなく大きかった雑誌なので、お疲れ様と感謝の意も伝えたい。
YAPCの話からそれてしまったが、Perlやそのコミュニティに関することで、僕にとって大事な話なのでとりあげておく。
はてなと旧交
YAPC::Kyoto期間中、連日はてなオフィスにお邪魔して飲んでいました。各所の懇親会の最後の受け皿となっていて面白かったし、その懐の深さはすごかった。旧交を温められてよかったです。ありがとうございました。
ついでに、はてな社で取材を受けてきました。写真はいい感じに撮ってくれてますが、この日はYAPC::Kyoto明けでまだYAPC気分が残存しており、実は、 id:onk ともどもだいぶYAPC疲れがある中での対談でした。その後の編集でカバーしたこともあり、面白い内容にはなっていると思うので、是非ご覧ください。